愛は満ちる月のように
「それは、遺伝子上の父親から親権を要求される可能性がある、ということかな?」


美月は正真正銘、悠の妻だ。

どんな人間が相手でも退けるつもりではいるが、美月がそれを望まなければ無理強いはしたくない。だが……美月の産む子供が、自分以外を父と呼んで育つことに許しがたいものを感じた。


(ああ、これが自業自得というヤツか。それもこれも、愛を認めようとしなかった僕のせいだ)


悠がどん底まで落ち込みそうになったとき、美月は実にあっさり引き上げてくれたのだった。


「いいえ。この子の父親は、あなたから子供に関するどんな権利も奪うことはできないと思うわ」

「それは……よかった。でも、ひょっとして、もう亡くなってる……とか?」


美月の言い方はあまりにも断定的で、それ以外は思いつかない。


「違うのよ、そうじゃないの。だから……なんて言えばいいのかしら。もう十六週……五ヶ月目に入ってるのよ」

「……」


妊娠の週数で言われてもさっぱりわからない。

何ヶ月という数字も、単純に足し引きすればいいものではない、ということは知っている。だが具体的にどう計算すればいいのか、日本最高峰の大学に通ったが教えてはもらえなかった。


「わざとだと思うならプロポーズを取り消してもかまわないわ。ただ……計算が正確なら、最初の夜か、お花見のときのホテルか……教会で授かったのならロマンティックで素敵。ああ、でも、子供には言えないわね」

「み、みつき?」


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