愛は満ちる月のように
「ちゃんとピルは飲んでたのよ。ただ……初めての経験だったから、二日ほど飲み忘れたみたいなの。ちなみに予定日はお正月の少しあとよ。ニューイヤー休暇に重なったら大変だわ」

「美月ちゃん……ストレートに答えて欲しいんだが。ブロンドの子供が生まれる確率というのは……」


美月は悠の腕の中でにっこりと微笑む。


「ゼロよ。だって、私にセックスの手ほどきをしてくれたのって、ユウさんだけだもの――怒った?」

「フ……フフフ……フ、ハハハ……」



日本を発つとき、東京の実家に寄った。

父から、


『自分は正しいと信じて、大きな過ちを犯していることがある。人生は不測の事態の積み重ねだ。過ちに気づいたら、なるべく早く謝ってやり直すんだ』


そんな言葉をもらったが、悠は聞き流したのだ。

一々言われなくともわかっている。自分は父のような過ちを犯さないよう、気をつけて生きてきた。沙紀の罠に嵌った以外に過ちはない、と。

それが、もう少しで父と同じ……子供の存在すら知らない、愚かな父親になるところだった。



(偉そうに言ってコレじゃ……救いようがないな)


「ねえ、ユウさん……本気で怒ったりしてないわよね?」

「怒ってないよ。それどころか、幸せ過ぎてチャールズ川沿いをスキップしたいくらいだ。ああ、笑ったのは……あまりに的外れなプロポーズだったな、と思って。でも、よかった……誰とも決闘せずに済む。君にもし、やっぱり子供の父親と一緒になる、と言われたら……どうやって、ソイツを始末しようかと考えてた」


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