愛は満ちる月のように
家族に一切連絡は取れず、日本に帰ることもできない。

美月は最初にボストン美術館で会ったとき、自分と会ったことは内緒にして欲しいと言った。悠自身、実家とは疎遠になっているので簡単に了解したが、そんな事情があったのか、と今更ながら恐ろしくなる。


『十六歳になる前、去年の秋にこっちに来たの。たまに家族の情報がもらえるけど……声を聞くことはできなくて。本当はすごく日本語で話したかったけど……迂闊に近づくなと言われていたから』


悠の姿を見て懐かしさが込み上げてきたと言う。

だが、相続人となってからは様々な男が下種な思惑で近づいてきており、彼女は悠のことも警戒したらしい。ひょっとしたら、美月の留学先を知り、わざわざやって来たのかもしれない、と。


『僕が桐生の財産目当てでってこと?』

『……ごめんなさい』

『いや、でも美月ちゃんは信じてくれたんだ。それは、どうして?』


美月は少し口ごもると、恥ずかしそうに俯き、『……イチゴを食べてくれたから……』と、消えそうな声で答えた。


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