愛は満ちる月のように
美月は一階で自分の分の会計を済ませたという。そのとき、暁月城ホテルの場所を尋ねた。二キロもないと聞くと、美月は歩いて行くと答え――。


「ちょっと待て、タクシーでホテルに向かったんじゃないのか?」

「桜フェスティバルの話をしたら、さくら通りを歩いて行くと言っていたが」

「どうしてそれを先に言ってくれないんだ!」


悠はスーツの上着を引っつかむと、早足で階段に向かう。

そんな悠に那智は声をかけた。


「彼女には許してるんだな」


なんのことかわからず、悠は足を止め振り返った。


「“ユウさん”だよ。どこかのパーティで会ったとき、そばにいた女性がそう呼んだら、翌日には別れてた。それは“トクベツ”なんだろう?」


悠は何も答えず、再び那智に背を向けた。


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