愛は満ちる月のように
美月はせめて父に見捨てられまいと、懸命に母の面影をトレースした。

ストレートの黒髪で華奢な体つきをしていた母。音楽や芸術方面に優れ、スポーツは苦手だったという。

だが、髪はともかく、平均より高い身長はどうしようもない。

体型も同じく……。

必死でダイエットをしても、美月のしっかりとした骨格では“華奢”と言ってもらえることはなかった。得意なスポーツもなるべく避けるようになり、器用ではないのにピアノの先生を目標にしてレッスンに通った。


ボストンに渡った当初、美月は周囲の出来事に対して必要以上に警戒し、ピリピリと張り詰めた日々を送っていた。

愛想は更に悪くなり、身なりを気遣うことすらしなくなり……。


(こんなことなら髪を戻してくるんじゃなかったわ。悠さんに余計な誤解を与えたかもしれない)


美月の容姿が変わったことに、悠は過剰に反応していた。

確かにそれを望んだのは彼女自身だ。十六歳の少女ではなく、二十三歳の大人の女性だと認めて欲しかったからだが。

セックス抜きで、美月は悠の子供を望んでいる。

それが正しいのか間違いか……そして、自分の心に眠る想いの真実がなんなのか。

理屈や計算式では答えの出ない感情を持て余したまま、悠と再会してしまった。


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