愛は満ちる月のように
美月は軽く首を左右に振り、悠に対する想いを振り払うと、携帯電話を取り出した。


帰国していることを父に伝えておこう。

もうすでに悠から連絡がいったかもしれない。


父の体調はほぼ回復して、現在は代表取締役社長を勤めている。数年前、ボストンまで来てくれた父に昇進のお祝いを言ったが、『雇われ社長だから大したことはない』と笑っていた。

弟の小太郎は飛行機が苦手なため、義母と弟とは八年近く会っていない。


悠との結婚以降、ボストンで妙な目に遭うことはなくなった。

桐生もグローヴァー一家を唆しただけで、直接乗り込んで来てはおらず……。グローヴァーは会社を解雇され、一家は藤原グループを敵に回したことにより、マサチューセッツ州から追われたという。

日本国内では法すら捻じ曲げる権力を持っていても、海外では通用しない。

そんな桐生一族の中には、藤原や一条に擦り寄ってくる者もいるらしい。


(もう大丈夫かしら? 家族と会っても、迷惑はかけないかしら? それとも……)


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