隣に魔王さん。
■Ⅸ.揺れて揺れて。


はぁ、―――



アンニュイに吐き出された溜め息、今日で何回目だろう。
ティータイムの給仕をしていた(久しぶりの登場の)スウハさんがやんわりと“58回目です”と微笑みながら言うから私も微笑みで返す。



―――あのあと、


魔王さんは何事もなかったようにいつも通りに私と話す。最初はぎこちなかったけど3日も立てば慣れた。
意識してみてわかった。
普通、だと感じていた思っていた魔王さんの私への接し方は“トクベツ”と名の付くものだったことが。
ほんとは心の片隅でわかっていても気づかないフリをしていたのにあんな直球でこられれば嫌でも気づかなければならなくなった。





こんなこと、前にも一度あった。
懐かしい、あのひと。


ふと、墜ちそうになって慌てて無意識に消し去る自分がいて自嘲する。





―――大切、にしないといけない。



けど、もう過去として見始めてしまってる。
そんなことしてはいけないのに。
記憶を思い出になんか変えて、傷痕を治してしまわないようにしているのに。
胸の痛みはそのままで。
あのひとを、貴方を刻みつけておく鎖にして、



一歩も動きたくないと思っていても、気づけば開く距離。


物理的な距離じゃないの。



でも、遠い、遠い、遠い、遠い、貴方。



あの時、触れれる寸前でいなくなった貴方。


貴方に赦してほしいのか、
貴方を赦せばいいのか、




動けない、動いてはいけない。
頑なに貴方を守らないといけないのになんで――



なんで、魔王さんをいれてしまったのだろう。
なんで、想いを自覚してしまったのだろう。
なんで―――




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