ある夕方の拾いモノ -狐と私、時々愛-
刹那、愁と燈は同時に声のしたほうを振り返った。
そこにいたのは、銀色の髪を短く刈り揃えた愁によく似た男。
「頭領…!」
燈がそう言って頭を下げるのを笑顔で眺めると、その男は口を開く。
「愁、行くがよい。…惚れた者の手を簡単に離すものではないぞ」
彼の言葉は頭領としてでなく父親が息子に告げるもので。しばし迷う愁の頭をくしゃりと撫でると、朗らかに続けた。
「おまえを受け入れるかどうかはあの娘が決めること。勝手に判断して諦めようとするな。………尤も、あの娘ならとうにおまえを受け入れているように見えるのだがなァ」
そう言って笑みを浮かべている父親に、息子はぎこちなく笑う。そうして、この場から姿を消すのだった。