GEDOU―樹守る貴公子―



 天冥は言い募った。


 誰になんと言われようが、どんなに悪い事と言われようが、どんなに愚かな事であろうが、これだけは貫き通さなくてはならない言葉を。



「・・・くだらぬ」


 いつの間にやら突き出していた幻周の夜刀神の姿の一つである尾が、地面を打つ。

 同時に、命令を受けたように邪魅たちが一斉に渾沌に飛び掛った。

 しかし、その瞬間には、邪魅たちは渾沌の口の中にいた。一秒も経たぬうちに、飛び掛った邪魅を渾沌は口に含んでいたのだ。


 何という速さか。


 渾沌が口の中の邪魅に牙を立てると、そこからえげつない音が鳴る。

 げしゅ。

 ばりっ。

 ぐちゅ。

 びぃっ。

 ぼきっ。

 渾沌はこの上ない喜びを味わったように身を震わせ、邪魅たちを咀嚼した。


「・・・観念するんだな」


 
 天冥が、鬼の――まさに外道の如き笑みを浮かべた。







 
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