女王様のため息


部署に戻った時には、お昼休みが終わって、既に午後からの業務は始まっていたけれど、午前中忙しかった私に誰も何も言わなかった。

一応、貴和子に言われたとおりにメイクを直しているけれど、司との5分による表情の固さまで隠せたのかは自信がない。

周りの同僚たちが忙しくしている慌ただしさに助けられて、何事もなかったかのように席についた。

「真珠さん、研修部の部長からの伝言。手が空いた時でいいから研修部に顔を出してくれって」

「え?研修部?」

声がする方に視線を上げると、書類を抱えた先輩の雨宮さんがいた。

設計部にいるはずの雨宮さんがどうしてここにいるんだろうと、眉を寄せた私に。

「あ、さっきエレベーターで頼まれたんだよ。この書類を手に持ってったから、俺が総務部に行くってわかったみたいだな」

嬉しそうに見せられたのは、『結婚連絡票』。

社員が結婚する時、会社へ提出する書類の一つで、結婚相手の氏名や、挙式、披露宴をする場合はその日時や場所も記入する。

その連絡票を元に、社員へのお祝い金の準備や、祝電の手配、社内誌への記載。
健保への連絡もある。

一連の事務手続きに必要な情報を会社に連絡するものだ。

「雨宮さん、とうとうご結婚ですか?」

嬉しげに連絡票をぴらぴらと見せる雨宮さんは、大きく頷いて

「ああ、ようやくプロポーズOKしてくれたんだよね。
彼女の気持ちが変わらないうちに、籍を入れて確保しておかないと」

幸せそうに囁いた。

「おめでとうございます。幸せそうですね」

「ありがとう。これ、課長に提出してハンコもらえばいいんだよね」

「あ、はい。今席を外されてますので、私が預かりますよ」

「そう?助かる。じゃ、頼んだよ。あ、研修部にも顔出しておいてくれよ」

「……はい。わざわざありがとうございました」

雨宮さんから書類を受け取って、後で課長に決裁を仰ぐ書類と一緒に未決箱に入れながら、どうして研修部?と首を傾げながらパソコンに向かった。






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