女王様のため息
「私は、兄さんが結納を交わす時、感動したの。
それほど広くもない我が家の和室に並べられた結納品を見て、結婚ってすごく厳粛なものなんだなあって真摯な気持ちになったし、結婚っていう一生の契約を結ぶ大切な儀式のようだった。
兄さんも義姉さんも結婚する覚悟を決める幸せに溢れてたし、羨ましかった。
だから……」
「だから、結納をちゃんとしたいのよねー」
「あ……はい」
ぽつぽつと思い返すような私の言葉に続けて、恵さんが弾んだ声で司を睨んだ。
「司は面倒な部分しか見てなかったかもしれないけど、私は結納の時、結婚する実感がわいてきたし、お互いに努力して幸せにならなきゃなって覚悟を決めた大切な時間だった。
真珠ちゃんが言うように、結納の面倒くささを乗り越えるくらいの気持ちがなきゃ、この先の結婚生活は楽しくないよ」
司が結納を拒む気持ちを知って、恵さんは、自分が結婚するまでの経緯までもを拒否されたと思ったようだ。
その口調はとげとげしい。
まあ、司の気持ちもわからないでもないし、ただでさえ、結婚の準備は面倒だと聞くから、できれば単純に、あっさりと何事もすすめたいんだとは理解できる。
私だって、面倒な事はごめんだけど。
でも、司の家族はみんな、結納を交わす事を望んでいるようだし、私だって以前から憧れを持っている。
兄さんの結納の時の、あの厳かな誓いを目の当たりにして、私は結納という儀式に洗脳されたかのように、憧れを持つようになっていた。
「司の気持ちも尊重しなくちゃいけないのはわかるけど、結納は、ちゃんとしたい。極端に言えば、結婚式はしなくてもいいから」
私の憧れだけで、全てを望みどおりに進められるとは思わないけれど。
「私を手に入れるために、頑張って欲しい」
かなり上から目線。
どちらかというと傲慢。
そんな言葉を呟いて、じっと司を見つめた。