女王様のため息


「で、今では俺って設計部には欠かせない存在に成長したわけだ」

私を見つめたままの瞳はそこから揺れる事なく言葉も続く。

「設計部も今はまだ俺を手放すつもりはないし、相模さんの後継者として育てていく計画も変わらない。
それは、それだけ俺に将来性と才能を感じているからだ」

にやっと笑う司からは、まるで『俺って、どうだ、凄いだろ』という明らかな自信が溢れていて、それはきっと司がそう思えるだけの裏付けもあるんだろうと想像するのも易しい。

もともと好きな仕事に思う存分集中でき、それも尊敬している相模さんという人の下での時間を何年も経ていれば、そんな裏付けに基づいた自信を得ていても不思議じゃない。

ただ、そんな自信をこうして露わに見せるなんて機会、今までなかったんだけどな。

「真珠と結婚して、たとえ通勤が今より大変なものになったとしても、それぐらいじゃ俺の立場が揺らぐなんてことはないし、俺だってそんな状況に影響を受ける事なく仕事をこなしていく自信はあるから。
俺の事、見くびらずに信じてろ」

「でも、毎日の事だし、一旦生活を始めてしまったら、想像よりも大変だと思うんだけど」

ずっと胸の内にとどめていた想いは、一旦口に出すと次々と溢れてくる。

司の事が好きだから結婚したいけれど、仕事をすぐに辞める事にも抵抗があって。

きっと、司が抱える負担の方が多くなる結婚生活。

それに踏み切っていいのかどうか、私の気持ちの奥底での葛藤を言葉に出すと止まらない。

「そりゃ、司がかなり仕事のできるオトコで、相模さんの後継者として期待されているのも知っているし、どんな状況でも努力して仕事はこなしていくとわかってるけど。
わかってるから、心配。司が一人で無理しそうで、心配」

きっと、司には遠距離通勤と仕事を両立させようとする強い意志と実力があると思うけれど、それがどこまで続くのかも、体を壊さないかも不安。

その不安を口にする事なくここまで曖昧に進んできたけれど。

相模さんが言ってくれたように『ただ愛してやれ』っていうのは私にとっては当然の事だから、それ以上に心配になってしまうこれからの事をやっぱりないがしろにはできない。



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