女王様のため息
お風呂にのんびりと逃避行し、その間の思考はシャットアウト。

何も考えずにひたすら体を解放すると、それまでの悩みは一瞬でも小さくなる。

体を温めると硬くなっていた心身すべてが緩み、『ま、仕方がない』と思えるのが私の特技かもしれない。

これまで何度も悲しみや苦しみを経てきたけれど、お風呂で体を温める事が私の心を守り、復活させるための防衛方法かもしれない。

お風呂からあがって、リビングでビールでも、といきたいところだけど、まだ午前中だな。仕方がない。

冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出して一息。

アイスコーヒー用の粉は、いつも海が持ってきてくれる。

海の実家はカフェを開いていて、お店にはいつもおいしいコーヒーの香りが漂っている。

海のお父さんは、私のコーヒー好きを知って以来しょっちゅう海にコーヒーの粉を持たせてくれて、おいしい淹れ方も伝授してくれた。

今飲んでいるコーヒーだって、海の実家からのもの。

ふーっと小さく息をはいて、ソファで体を伸ばした先の視界には、転げ落ちたままの通勤鞄。

中身がぼろっと零れ落ちたままで、無造作に広がっている。

「あーあ」

中身を拾い集めていると、その中にはスマホも交じっていて、着信があったと知らせる青色が点滅していた。
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