女王様のため息

なんだか親しげに私を見ている表情は、どこか飄々としていて、緊張感なんてまるで感じられない。

彼は、私に軽く笑って見せると、そのまま視線を正面に向けた。

誰だろう、私の大学の後輩なら、入社式前に会ってるからわかるんだけどな。

やけに親しげに笑顔を向けたその男の子が気になったけれど、研修の司会を務めている研修部の課長に名前を呼ばれて、彼の事はとりあえず意識の外に。

去年は散々苦労させられた講義の始まりに、ほんの少しだけ気持ちが引き締まった。


そして。


私が所属している総務部の様子や、年間の業務説明を終えた後、やはり行儀良く真剣に聞いている新入社員たちに違和感を覚えた。

やけにいい子過ぎて、あまりにも去年とのギャップに首を傾げたくなる。

檀上に立つ私へ向ける視線は、これから仕事をしていく緊張感と希望と不安に満ちていて、新人らしくていいんだけど。

なんだかなあ。

物足りないって思うのは、私のわがままなのかな。

去年の新人たち。つまり今では社会人二年目となった彼ら彼女らの方が人間味があったのかな、と思ったりもして。

意外に去年の出来事も楽しかったな、と思う。

そんな私の心の片隅に、ちょっとしたいたずら心が湧いてくるのは自然な流れで、顔には出さずに、試すように。

「わが社の資本金が言える人、いますか?」

聞いてみた。







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