流れゆくもの
─アイツの名前、何だっけなァ…


冷めたコーヒーの残る紙コップ。
指で弄んだスティックシュガーの袋。
テーブルを片付けながら藤野は考える。



いつも来客や打ち合わせに使う小さな会議室。
申し訳程度の小さな窓は隣の建物に密接していて、少しの西陽さえ差し込まない。



いや、もちろん誰なのかは分かっている。

月に1~2度は訪れて、藤野と打ち合わせする広告代理店の担当者だ。

仕事において、それなりに意思の疎通が出来て業務が進むなら、業者の担当者の名前など、藤野にとってどうでも良い。

まして、そいつの普段の思考など…


興味の無い話に、聞きたくもない質問を投げかけながら適度に相槌をうち、辛抱強く耳を傾ける術は、いつの間にか藤野の身にしみついてしまっていた。



─だけど…




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