桜空あかねの裏事情

脈絡のないジョエルの問いに、昶は一瞬目を瞬かせる。


「……特に変わりはないと思いますけど」


質問の意図が理解出来たのか、昶は間をおいて答える。


「そうか。ちなみにお嬢さんがどのような環境に身を置いているのか……君はどこまで知っているのかな?」

「オレの口からは言えない」

「なるほど」


それだけでジョエルは充分わかったといったふうに、口元に笑みを浮かべた。


「ではもう一つ聞くとしよう」

「まだあるんですか」


昶はやや呆れ顔になる。


「これで最後だ。君はそこまでお嬢さんの状況を知っていて、何故助けようとしないのかな?」

「は――」


予想もしなかった問いに、昶は一瞬何を言っているのか理解出来ないとでも言わんばかりに言葉を詰まらせる。


「やはり怖いのか?また裏切られる事が。そして他者を傷付ける事が。それとも、自分を抑制して生きていくので精一杯なのかな」

「な…何言って」

「お嬢さんは少なからず君を頼りにしているというのに、肝心の君は他人事のようにただ見ているだけなんてな。気の毒な話だ」

「ッ……」


言葉を遮り皆まで言えば、昶は何も言えずに口を閉ざしてしまう。


「てっきり君は、こちら側にくるものとばかり思っていたよ」

「オレは…別に……」

「話はそれだけだ。邪魔したな」


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