桜空あかねの裏事情
「うん」
あかねは頷いた。
少なくともジョエルは、話してもいい事しか明かしていないだろう。
それでも本心の一部を教えてくれたのは確かであり、今はそれで充分だった。
満足したと言わんばかりの笑顔に、ジョエルは表情を崩さずに再度問い掛ける。
「知りたがりのお嬢さんにしては、随分と場を弁えているな」
「無理矢理知っても意味ないでしょ。特に人の心は。私はその人自身から話されて知りたいの」
問の答えにジョエルは一瞬目を瞬かせるが、すぐに席を立ち食堂のドアへと歩いていく。
「どこ行くの?」
「客間だ。折角来てもらっても、私達がいなければ話にならんだろう」
不意に時計を見れば、予定の時間まで残り僅か。
優雅に朝食を取っている場合ではないと知る。
「葛城さん早く来ちゃうかなぁ」
「彼も立派な成人だからな。君のような非常識なお子様とは違う」
「む」
「私からしてみれば、どうでもいいことだが。せいぜい遅れないように来る事だ」
まるで釘を刺すような言い方に、あからさまに嫌な顔をすれば、ジョエルは挑発的な笑みを残して食堂から去っていった。
その後、あかねは負けじと朝食を黙々と食べるのだった。
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