桜空あかねの裏事情

オルディネに限らず、チームに所属する者は大抵秘密主義を貫く者が多いと、与えられた本に記してあったのを思い出す。
現代以上に迫害される立場であった過去の異能者達は、自らの正体が明かされぬよう最低限の事柄以外には口を閉ざしていたのが根源とも言われている。


「それに君には色々と感謝している面もある。生徒達もあれ以来、君がいつ来るのかと聞いてきてな。騒がしいのが余計に騒がしくなった。良かったらまた養成所に遊びに来てくれ」

「はい!今度は私の友達も一緒に連れて行きますね!」


嬉しそうに頷けば、駿もまた優しげな笑みを浮かべた。
少なくとも悪い印象を持たれないのだと、あかねは内心安堵する。


「さて……話も一区切りついたようなので、そろそろ本題に入らせてもらおう」


様子見をしていたジョエルの声が、和やかな雰囲気を壊すように部屋に響く。
あかねからしてみればもう聞き慣れたその低く重い声だが、葛城駿はどこか緊張した面持ちで身構えた。


「君に声を掛けたのは他でもない。以前手紙にも書いたと思うが、このチーム・オルディネに所属してもらいたい」


時間が惜しいかの如く、単刀直入で目的を言えば駿は口を噤む。
何か戸惑っているようだったが、そこに驚きは含まれておらず、それどころか悩ましげだった。
ジョエルの言葉から察するに、少なくとも二人はこの短期間で接触をしていたという事だ。


「君にとって悪い話ではないはずだが」

「そうだな。だが……」


駿はそこで一端言葉を切って、そして気まずそうに再び口を開いた。


「この場に来て……こういう事を言うのは気が引けるが、オルディネは落ちめだ。解散の噂もよく聞いている」

「それは……っ」


あかねが言いかけると、余計な事は言うなと言わんばかりにジョエルは彼女の肩に手を置いた。
そして代わりに、余裕の笑みを浮かべて口を開く。


「君も知っての通り、我々オルディネの解散の噂は事実だ」

「ジョエル…」

「何も隠すことではないからな。彼が所属するならば伝えておくべき事実だ」


もっともな事を言われ、あかねはそれ以上何も言わず、さり気なく駿の方を見遣る。
彼は嫌な顔一つせず真剣に話に耳を傾け聞いていて、事実を隠す事は邪推だったと思った。


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