桜空あかねの裏事情
「だが我々は解散する気など毛頭ない。だからこそ饒舌な古い馴染みをわざわざ使って、君をスカウトさせたのだからな」
――古い馴染み?
ジョエルが直接、スカウトしたんじゃないって事?
一つ疑問が浮かび上がるも、話は進む。
「そちらの意図は理解出来た。だが……それならば何故、俺をスカウトした?俺は」
「先天性拒絶症だからか?」
「ッ……」
ジョエルの言葉に駿は息を呑み、途端に視線を逸らす。
その表情は悔しそうな悲しそうな、どこか悲哀に包まれている。
その理由を知っているであろうジョエルを見上げれば、彼は待っていたかのように既に視線をあかねに向けていた。
「……お嬢さんにはその類の本を与えていなかったな」
「うん」
「手短に話すが、我々異能者は能力に関係なく体質によって大まかに四つのグループに分けられている」
「4つ?」
ジョエルは静かに頷く。
「一つは異能者の約七割を占める発動時期から死亡するまで異能者である者。もう一つは能力が年月と共に減退し、いずれは異能そのものがなくなり、一般人と同義となる者」
そこまで話を聞いて、異能者でさえもこうして分けられている事を知らなかったあかねにとって、その事実は思わず聞き入ってしまうものだった。
ジョエルは更にその事実を明かしていく。
「残り二つは稀なケースなのだが、一つは未だ研究途中で私も多くの事は知らない。説明は省かせてもらう」
「……」
無言の了承を得ると、ジョエルは駿を見る。
その視線に次の言葉を予想するかのように、駿は体を若干強ばらせる。
「そして残り一つ……これは極めて稀で該当する者も一握りなのだが、深刻な問題でもある」
「どういう事?」
「俗に先天性拒絶症。またはタイプ3と言われる異能者だ。生まれつき身体が異能そのものを受け付けず、拒絶反応を起こしてしまう者を指す。要は異能を使えば使うほど、身体に多大な負担が掛かり、場合によっては死に至る事もある」
「そんな……!」
新たに知った事実に思わず動揺し、縋るように駿を見れば、彼は平静を装い頷いた。
「彼の言うとおりだ。俺は正真正銘、先天性拒絶症に該当する異能者だ」
「葛城さん……」
しっかりとした口調で答えるが、どこか諦めたような物言いに、あかねはどこか悲しくなる。
「タイプ3の異能者など厄介な事この上ない。養成所で非常に優秀な成績を修めていた君が、チームに入れなかった理由は大方それだろう」
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