桜空あかねの裏事情

相手は欺くのが難しい上司でもある男。
気が重くなりながらも、心を落ち着かせるように一息つく。


「アンタは外出して留守だった。それでいい?」


そう言い切ると、瞬時に目を輝かせる陸人。


「ありがとー!恩に着るよ!」

「そうしてちょうだい。ちなみに私は、これからソンブルに数日潜伏するから、それが終わったら是が非でも館に連れてくわよ」

「了解!…って何でソンブル?」


他チームの名が出て、さぞ疑問に思うだろう。


「言い忘れてたわ。今月末に、ランキング戦があるのよ」

「あ、なるほど。いつもみたいに不戦敗とかは、流石にもう無理って事かー」


悪びれもなく言葉を紡ぐ。
どうやら皆まで言わなくても、察しているらしい。


「とりあえず、連休明けには館に戻るから安心してよ」

「ええ。分かったわ」


頷けば、陸人は嬉しそうに笑う。


「んじゃ、この話はおしまいっと。そろそろ義姉さんも戻ってくるだろーし。あ、お茶する時間ぐらいあるでしょ?」

「少しならね」

「なら話し相手になってよ」


親しい人には配慮を欠かさず親身になるのに、それ以外の者達にはぞんざいな接し方しかしない陸人。
正直勿体無い気がしてならない。
話を聞きながら、不意にそんな事を思う。
きっと素直じゃないのだろう。
しかしだからこそ馬が合い、行動を共にすることも話すことも出来るのかも知れない。
ようはお互い様なのだ。


「あ、無理にとは言わないけど」

「別にそれくらい良いわよ。女同士の方が話しやすいこともあるだろうし」

「ありがとう。やっぱギネヴィアは優しいね」

「どうかしら。ただの気紛れかも知れないわよ?」



近付いてくる足音を聞きながら、ギネヴィアは笑みを浮かべて、そう答えたのだった。


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