桜空あかねの裏事情

20XX年 3月 大徳高校 某教室


それからどれくらい経ったのだろうか。
いつの間にか入学説明会が終わり、ざわめきの中で新入生達が保護者や友人達と共に、次々と教室から出て行く。
彼等が通り過ぎていく中で、黒髪のボブに小柄な少女――桜空あかね(オウゾラ アカネ)は偶然にも話し掛けられ、出会った少年――香住昶(カスミ アキラ)と一緒に教室を出た。


「桜空あかねって書くんだな……名字なんて読むんだ?さくらそら?」


耳に馴染みやすい陽気な声で、率直な疑問をあかねにぶつける昶。
恐らく話し掛ける前に、後ろから鞄にしまったプリントに書いてあった氏名を見たのであろう。


「おうぞらって読むの」

「おうぞらかぁ……珍しいな」


桜空と言う名字は、周りから見ればそれはそれは珍しい。
読み方も聞かなければ、そう簡単には分からないだろう。
初対面の人に大抵聞かれる事の一つであり、あかねからしてみれば至極普通の反応だった。


「よく言われる」

「でも何か言い辛いな。あかねって呼んでいいか?」

「いいよ。香住くん」


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