桜空あかねの裏事情


気付けば、私は籠の中にいました。
それはとても頑丈で、叩いてもびくともしない籠でした。
けれど籠の外を知らない私にとって、それが世界でした。

そんな私のもとに今まで
多くの人がやってきたけれど
いつまでも同じ場所にいられないと言わんばかりに、籠の中に入ってもいずれは出て行ってしまう。
その所為か、籠の外への興味は少しずつ募っていくけれど、それでも籠の中は安らげて居心地が良かったのです。
例えそれが、どれだけ歪んでいたとしても。

そんなある日――。
籠の中にまた誰かがやってきました。
それは私より少し年下の少女。
幼い外見だけれど、彼女は思いのほか強気でよく言葉を口にしました。
そしてこの籠の中に酷く不満を露わにし、嫌悪を抱いたようでした。

私はそんな物怖じせず、珍しい彼女に興味を持ち、次第に惹かれていきました。
彼女は私の知らない事を多く知っていて、求めれば素直教えてくれました。
籠の中に入ってきた人達の中で、今まで会った誰よりも輝いて見えたのです。
けれどその反面、彼女の全てを見透かすような青い瞳が、私をどこまで見ているのか怖くもありました。
それでも彼女は変わらず接してくれて、彼女と共にいる時間は何よりも楽しく、愛おしかった。

けれど――。
人はいつまでも同じ場所にはいられない。
だから彼女もいずれは外へと羽ばたいていく。
これは始めから分かっていたこと。
彼女は籠の中の世界で過ごす事など出来ないから。
彼女を必要としている存在が私だけではないから。
そして何より、彼女の瞳には私は映っていないから。

今、私の手を握っている小さな手が離れそうになった時、手放したくないと必死に掴んだとしても、彼女は外の世界へと去っていくのでしょうか。
それとも、私すら連れて行くのでしょうか。
分からないのです。

けれど一つ分かっています。
今更飛び出したところで、この籠の中以外では、私は生きていけない事を。

それなのに何故。
彼女の手を離す事に、
これほどまでに躊躇ってしまうのでしょう。

その理由を
私は知っているようで知らないのです。

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