桜空あかねの裏事情

見慣れない天井、家具、香の匂い。
意識が少しずつ覚醒するにつれ、認識出来たもの。
そして完全に覚醒した頃には、今まで出来事は決して夢では無いと、思い知らされる。

矢一と名乗った男によってアロガンテへ連れられて、あかねは黒貂の形だけの付き人となり約五日が経過していた。
不本意だが、必ずオルディネへ帰す約束を条件で話し合った結果、そう纏まった。
それから黒貂の話し相手として、昶や朔姫のことやオルディネでの過ごし方、流行りの物事、戸松という街のことなど、様々な事を話しつつ、この空間の中で過ごしていた。
勿論、あかね自身は最初は警戒していた。
だが話していく内に黒貂の人柄の良さや、子供のように興味を抱く純真さなど様々な彼女を垣間見て、少しずつ気を許していった。
昨日も長く話していたと思うが、あまり覚えていない。
どうやらいつの間にか寝てしまったらしい。
証拠に椅子に座っていたはずだが、何故か布団に移されている。

相変わらず、甘ったるい香の匂いがする。
何故か少し気分が重くなる。


「……」


ここに来た時も思ったが、この部屋は窓一つない。
換気も気になるが、それ以上に箱に閉じ込められているかのような歪な感覚が気になってしまう。
黒貂は自分の部屋と言って差して不満もなく過ごしているようだが、妙な違和感があるのだ。
あかねはどことなく、そう思った。


「お腹空いた……」


寝ていた間に、どれくらい時が過ぎたのだろうか。
空腹具合からして、それなりに経ってはいるのだろう。
しかし携帯は気絶してる間に鞄とともに没収され、当然ながら辺りを見てもテレビもない。
その上、時計などはない。ただ一時間の周期で、どこからともなく鈴の音が鳴り響き、午後一時なら鈴が十三回鳴る。
という仕組みになっており、回数で一応分かるようになっている。
とはいえ、今はその鈴の音も聞こえないので、結論からして、朝か昼かも分からないのだ。


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