桜空あかねの裏事情
はっきりとして凜とした声色で、透き通る青い瞳で、あかねは射抜くように見つめる。
「他の…世界?」
何かを言わずとも、瞳を見ただけで分かるほど強い意志に、黒貂は感化されるように言葉を漏らす。
「あなたが知らない世界よ。このプラティアだけじゃない。私が普段過ごしてる世界とか……知りたいと思わない?」
「それは……」
何かを言いかけて、黒貂は口ごもる。
追い打ちをかけるように、あかねは更に言葉を続ける。
「こんな狭いとこより、あなたが見た外の景色より、素晴らしいものが沢山あると、私は思う」
――きっと、こんな場所で生きていたのが、馬鹿馬鹿しく思えるほどに。
「あなたはどう思ってる?私が話した事から、何か思ったりした?」
「…私は……」
問い掛けも虚しく、黒貂は黙り込んでしまう。
それでもあかねは、様子を見ながら彼女の言葉を待つ。
だがその沈黙が少し経った後、不意に何かが動くような音が聞こえた。
「何?」
「!…あかね様、こちらへ」
あかね同様に音を聞いた黒貂は、我に帰ったように自分の傍へと促す。
普段とは違った凜としたその姿に、何も言わずに傍に寄る。
「あかね様。申し訳ありませんが何も喋らず、ただ私の傍にいて下さいませ」
「…分かった」
若干、警戒したような素振りを見せる黒貂。
何があるのかと思う束の間、音が聞こえた方から微かに足音が聞こえてきた。
それは徐々に鮮明に、大きくなっていき、やがて二人の前に姿を現した。
「やぁ黒貂!元気にしてたかい?」
溌剌とした第一声。
あかねの目に映ったのは、赤い蝶ネクタイが印象的な男であった。
「…則義様。お久しゅうございます」
――則義?この人がオーナーなの?
笑みは崩さないものの、どこか他人行儀な素振りでお辞儀をする黒貂を視界の端にいれながら、男を見る。
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