桜空あかねの裏事情

そう言って黒貂は何か考える素振りをし始める。
自分の為に退屈しのぎになるものを考えているのだろう。
だがあかねは、その様子を見て以前から密かにあった疑問が浮かんで来る。


「…あのさ」

「はい」

「黒貂は退屈じゃないの?」


投げ掛けた問いに、黒貂は目を丸くし二度瞬きをして、首を振った。


「いいえ。貴女様と言葉を交わすだけで満たされ――」

「そうじゃなくて」


あかねは強く言葉を遮る。


「この部屋に、私よりもずっといるのに、退屈じゃないの?」


ここに来て二日ほど経過した頃から、感じ始めていた。
檻のような閉鎖的な空間の中、不満もなく普通に過ごしている彼女に、違和感を。
ここから一度も出たことがないと言うならまだしも、外の世界を知っていると聞いて尚更。


「……ええ。退屈だとは思いません。元より、この空間が私の世界でもありました。それに…」

「それに?」

「定期的に、矢一が外へ連れて出してくれます。ですから退屈ではありません」


はっきりと尤もな理由を述べる黒貂。
だがそれでもあかねは納得がいかなかった。


「うーん……それだけで、満足出来るものなの?」

「そうですね…私が知る外の世界は、このプラティアという空間の、ほんの一部だけ。美しく素晴らしいものはあれど、ほとんどが荒廃し殺伐とした世界です」


荒廃し殺伐とした世界。
数日前、矢一がここはプラティア第六区と言っていたのを思い出す。
もしかしたら、彼女が見た世界というのは、危険区域と指定される第六区内だけなのかも知れない。
そうならば、何度も恋い焦がれるほどに外の世界へと、羨望の眼差しを向けるほどではないかも知れない。


「でも…」


呟きながら黒貂と視線を合わせる。


「他の世界を知りたいと思わないの?」


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