桜空あかねの裏事情

「泰牙さん。あなたが嫌なら、オルディネに入らなくてもいいです。だけどせめて、私の傍にいることは出来ませんか?」


あかねの変わった申し出に、泰牙は目を数回瞬かせる。


「君は……俺がオルディネに所属する事を望んでるんじゃないの?」

「正直なところを言えばそうです。だけど泰牙さんが嫌なら、無理強いはしたくないんです」


泰牙に限った事ではない。
オルディネにと望んだ昶や駿に対しても、そうしてきたことだ。


「だけど私、泰牙さんともっと話したいし分かりたいんです。それにここでさよならなんて、寂しいじゃないですか」


笑みを絶やさず、穏やかな声色で伝えれば、泰牙は途端に困った顔をした。


「そうは言ってもねぇ……オルディネには俺を疎んでる人がいるよね。彼らはどうするの?」

「ジョエルなら私がなんとかします。あの人見た目も性格も悪いけど、話せばちゃんと分かる人です」


あかねは泰牙の膝から降りる。
そして向き合うように前に立ち、真剣な眼差しで、されど微笑みは絶やさず泰牙を見据えた。


「もう一度言います。泰牙さん、あなたは私が守ります。そしてあなたの事をもっと知りたい。だから、私の傍にいて下さい」


あかねの言葉に呆然としつつも、泰牙もまた真剣な面持ちで鳶色の瞳で静かに射抜いた。


「後悔することになってもいいの?」

「私自身が決めたことに、後悔なんてしません」

「君が決めた選択で、周囲の人が傷付いても?」

「その人達が傷付かないように、最善を尽くします。でも昶達なら、きっと大丈夫です」

「俺は臆病なんだ」

「知ってます」

「顔では笑っているけど、内では猜疑にまみれてる」

「分かってます」

「恐怖に駆られて、君達から逃げ出すかも知れない」

「なら逃げないように、私がしっかり見張ります」


幾つかの問答の末、緊迫した雰囲気に包まれるが、そんなものを微塵も気にせず、あかねはただ優しい笑みを浮かべた。


「私は泰牙さんのように、大切な人を誰かの手で奪われたことはありません。だからあなたが感じた痛みや苦しみ、悲しみ、その全てを理解することは出来ないです。それでも向き合うことは出来るはずです。それにあなたに寄り添うことも、共に歩いていくことも」

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