桜空あかねの裏事情


相手に真剣に向き合えば。
理解しようと努め受け入れることが出来れば。
そして自分の想いを伝えれば。
きっと分かり合える。
あかねは少なからず、そう思っている。


「と言っても私自身、向き合わなきゃいけない人から逃げてたりするんで、偉そうな事は実は言えなかったりするんですけどね。あははっ」


槐の事を思い浮かべ、あかねは苦笑する。
その様子に、泰牙は瞠目すると糸が切れたように、がっくりと肩を落とした。


「はぁ……君って実は、相当の手練れだよね」

「手練れ…ですか?」


あかねはいまいち意味が分からず、首を傾げて呟くと、泰牙は深い溜め息を零した。


「無自覚か。君って相当の曲者だよ」

「む!もしかして貶してます?」

「半分ね。全く……俺はとんでもない子に目を付けられたよ」


泰牙はあかねの頭に手をおくと、先程とは比べものにならないほど乱暴に頭を撫でた。


「わわっ!?ちょっと、泰牙さん!?」

「悔しいから、もう少しだけ世話になるよ」


泰牙の言葉に乱れた髪を直していた手を止めて、思わず顔を見上げる。


「え……本当ですか?」

「女の子にあれだけ言われて、断ったら男が廃るよ。それに君といるのは割と好きだからね。その代わり、サングラスの人の事は頼んだよ?」

「はい。勿論です!」


あかねは心の底から満足そうに笑った。


「よし!じゃあ、そろそろ彼らの元へ戻るよ!」


泰牙が溌剌とそう言い、いつもより清々しい笑顔を見せた刹那。
ふわりとあかねの体が浮き上がり、そのまま泰牙に抱きかかえられる。
巷で有名なお姫様抱っこだ。


「泰牙さん、あの」

「言ってなかったんだけど、実はここ廃墟の屋上なのよ。下まで降りるの面倒だし、あんまり遅いと、俺が怒られちゃうからね」

「は?え……ッ!」

「じゃあ行くよ!」


言いながら、泰牙は己の足下を思い切り蹴りつけた。
その瞬間、軽い衝撃が体を包み、あかねの見ていた景色がグニャリと歪んだ。
自分の体から体重が消える。
それらに混乱して数秒後、あかねの見る景色は固定される。
眼下に広がるのは無数の廃墟と、それらと静かに照らす月明かり。
とても静かで、何故か美しかった。
それと同時に、飛んでる。あかねはようやく気付いた。


「やっぱり飛ぶのって、気持ちいいよね!久々にやってみたかったんだ!」


見たことないほど、楽しそうに笑う泰牙。
そんな彼の様子に、あかねは一言呟いた。


「……良かったですね」


.
< 684 / 782 >

この作品をシェア

pagetop