桜空あかねの裏事情
「……帰ります」
「え?」
あかねの言葉にアーネストは思わず声を出し、前を歩いていた結祈は振り返って、不思議そうな表情をしていた。
「何か忘れ物でもしましたか?」
「いいえ。何も」
自身の動揺が悟られぬよう、なるべく冷静に答えようと努めるあかね。
だが他人から見れば、それは明らかに人が変わったように冷たい物言いで、結祈は次第に不安そうな表情になり、後ろにいたアーネストは心配したように顔を覗き込む。
「私が余計な事を言ってしまったから、緊張し過ぎてしまったかい?」
「断じて違います」
とは言えど、別の意味で緊張してしまったのは事実で、一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。
よくよく考えてみれば可笑しな話であった上に、結祈の言動にも不可解なものはただあった。
見逃していた自身にも非があるにせよ、まだ遅くないはずとあかねは一縷の望みをかける。
「結祈、連れてきてくれてありがとう。でもごめんね。私ここに住めそうにないや」
「一体どうなされたのですか?何か気分を害すような事を仰りましたか?」
鞄だけでも取りに行こうと部屋に戻ろうとする体を逃がさぬように、結祈は慌ててあかねの肩に手を置き問い詰める。
思いのほか力が込められており、体が動かない。
「ごめん結祈。お願いだから手を、離し――」
「やれやれ。随分と騒がしいな」
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