桜空あかねの裏事情


桜空家 蓮自室



「まさかあかねが帰ってくるなんて。驚いたよ」

「私も。てっきり葵か楓がいるものだと思ったら、蓮兄がいるんだもん」



窓から見える景色に目をやって畳に寝そべりながら、あかねは隣に座る兄――蓮(レン)にそう答えた。
今日はオルディネの今後を決める日。
本来なら昶達と共にヴィオレットへ行くはずだったが、急遽予定を変え実家へ帰ることにした。
休日ということもあり、楓辺りが出迎えてくれるかと思いきや、家を空けていることの多い兄に迎えられ、あかねは思いのほか驚いていた。


「ようやく課題が終わって帰ってきたんだ。ここ数日は家でゆっくりするつもり」

「大学って大変?」

「そうでもないよ。自分の好きなこと出来るし」

「ふーん」

「あかねは?高校生活は順調?」

「うん。仲良い友達も出来たし、凄い楽しいよ」

「良かった。そういえば寮にいるんだっけ?」

「え?あぁ……うん。そうだよ」


寮住みということを思い出し、あかねは間を空けつつもさり気なく言葉を紡いで頷く。


「最初は不安だったけど、思ったより部屋は広いし綺麗で、何より美味しいご飯もあって。まだ落ち着かないとこもあるけど、なんとかなると思う」

「そっか」


そう答えれば、蓮はそれ以上問い詰めて来ることはなかった。
上の兄二人に比べると大人しく物静かでマイペース。また他人と積極的に関わることもあまりなく、棗をはじめとする周囲の人はその事に不安を口にしていた。
しかしその距離感があかねには逆に心地よく、また兄達の中では歳が近いこともあってか、話し相手になってもらうことも少なくなかった。


「なんか静かだね。母さん達は?」

「母さんと棗兄さんは一昨日から出張らしくて帰ってないよ。楓は昨日から友達の家に泊まってて、今日の夜には帰って来るって言ってたよ」

「葵は?」

「出掛けたんじゃない。朝起きたらいなかったよ」

「…デート?」

「まさか。楓ならともかくあの葵だよ」

「無理か。性格悪くて友達すらいないもんね」

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