《短編》家出日和
夢とも現実ともつかない中、煙草の匂いに意識を手繰り寄せた。


一番に目に入ったのは、クリーム色の天井。


布団の中に居るのはわかったがあたしは、目線だけを左右に動かした。



『起きた?』


「―――ッ!」


瞬間、俊ちゃんの顔と煙草の匂いが近付いて。


腕枕をされていた自分に驚いた。


そんなあたしを見た俊ちゃんは、いつもみたいに伏し目がちに口元を緩ませて。


あたしとは逆方向に煙草の煙を吐きだしながら、それを消した。



「…何、で…?」


『腹上死させたのかと思ったけど。
生きてたんだ。』


“残念”と言った俊ちゃんにあたしは、唇を噛み締めた。


どこから気を失ったのかなんて、覚えてないけど。



『…あんま心配させんなよ、亜里沙…』


困ったように言いながら俊ちゃんは、

あたしの上に覆い被さって軽くキスを落とす。


俊ちゃんの所為なのに、と。


言いたかったのに、その穏やかな顔の所為で言葉が出なくて。


目を見開いて戸惑うあたしの瞳を見据えた俊ちゃんの目は、

瞬間に冷たいものへと変わって。



『…まぁ、今回の件は亜里沙の自業自得だろ。
恨むんなら、馬鹿な自分を恨めよ。』


「―――ッ!」



殺すことも、復讐することも出来ない。


それどころかあたしは、死ぬことも、逃げることさえも出来ないんだから。


これが、俊ちゃんの“優しさ”だとでも言いたいのだろうか。


あたしは、こんなのが欲しいんじゃない。


ただ、解放してもらいたいだけなんだ。


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