《短編》家出日和
家に帰ると、リビングのテーブルの上に、白い箱があった。


誰がどう見ても、ケーキの箱だけど。



「俊ちゃん。
これ、何?」


ソファーに座って煙草を咥え、新聞を広げている俊ちゃんにあたしは、

なるべく平静を装って問い掛けた。


だけど内心、穏やかではない。



『誕生日のケーキだよ。』


「…誰がこんなことして欲しい、って言った?」


『16は、女にとって特別だ。
だから亜里沙―――』


「余計なことしないでよ!」



俊ちゃんのこーゆー優しさは、好きではなかった。


あの頃のことを思い出してしまいそうで。


俊ちゃんのことを好きだったあの頃の気持ちを、思い出してしまいそうで。



「俊ちゃんになんか、祝って欲しくないから!」


あたしの言葉に俊ちゃんは、ため息を混じらせた最後の煙を吐きだし、

煙草を消して立ち上がった。


畳んだ新聞が、パサッと音を立てて机の上に投げられて。



『…じゃあ、他に誰か亜里沙の誕生日知ってるヤツ居んの?
結局、俺以外居ねぇじゃん。』


「―――ッ!」


静かに俊ちゃんは、言葉を投げて自分の部屋へと戻った。


悔しくて、悔しくて。


本当に、その通りだったから。


あたしの誕生日を祝ってくれる人間も、

それ以前に今日が誕生日だって知ってる人間さえも居ない。


俊ちゃん以外には。


そう言葉にして言われたとき、当たり前にあたしは、

言葉を返すことさえも出来なかった。



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