《短編》家出日和
結婚出来る年齢になったことの、何が“特別”だと言うのだろう。


俊ちゃんに捕えられているあたしには、そんなことは無意味でしかないのに。



ケーキの箱を開けると、数種類の三角のそれが、

箱の中狭しと並べられていた。


あたしの好きなものさえも知らない、あの人らしい買い方。


ケーキを食べようとは思わなかった。


食べれば、喜んでいるようにさえ思われてしまうから。


だけど、そのまま捨てることは、もっと出来なくて。


散々迷った末、お隣のオバサンにあげてしまった。



その日、夜の12時を回るまで“おめでとう”メールは一件も入ってこなくて。


本当に、俊ちゃんの言う通りになった。


これで、満足?






『…亜里沙…』


あたしを壁に押し当て、キスを落とした俊ちゃんの顔が、

一瞬だけ切なそうに見えて。


戸惑うようにあたしは、目線を逸らした。



『…そんなに俺のこと憎み続けて、楽しい?』



何を言ってるのか、わからなかった。


何であんなことをした張本人が、こんなことを言えるんだろう。



「…俊ちゃんこそ、こんなこと続けてて楽しいの?」


『楽しいと、思う?』


そのままを聞き返すのは、俊ちゃんの癖だろう。


その度にあたしは、言葉を続けることが出来なくなる。


静かに俊ちゃんは、何も答えないあたしから離れて。


ひとり、自分の部屋へと戻った。



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