《短編》家出日和
花火
あの日あの後、俊ちゃんはあたしにキスを落とし、

そしてそのまま背を向けて眠ってしまった。


その真意も、行動の理由も。


何もわからないまま。


俊ちゃんに、どう接すれば良いのかわかんなくなって。




『んじゃもぉ、俺んとこ来る?』


カフェの向かいの席で大我さんは、臆面もなくケラケラと笑う。


本日もまた、拉致事件の発生だ。



「…それ、どこまで本気で言ってんですか?」


『半分本気?
あとの半分は、俊二の反応が見たいだけ♪』



前から思っていたのだが、

大我さんは単に、俊ちゃんで遊んでるだけなんじゃないか、と。


だからまぁ、最近では、ちょっとウザいところもあるが、

貴重なあたしの“お友達”って感じなのだ。



『まぁ、亜里沙ちゃんの気持ち次第なんじゃない?』


「…あたしにどうしろと?」


『離れてみてわかることもある、ってことかな。』



意味わかんない。


大我さんはいつも、物事を簡潔に話したがるけど。


あたしの頭の中は、その所為で余計にこんがらがってしまうのだ。



思えばこの日から、あたしの頭の中に“家出”の文字が、

リアルに浮かび上がったのかもしれない。


俊ちゃんの傍に、居たくはなかったから。


どんな顔して、どんな気持ちで一緒に居れば良いのか、

もぉ全然、わかんなくなってたから。


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