わたしの魔法使い
虐められても、やっぱり表情がなくて。

そんな私を不憫に思った祖父が、「何でもいいから、好きに書きなさい」って、1冊のノートを渡してくれた。

真っ白な大学ノート。

小学生に渡すにはおかしいでしょ?

でも、そのノートが私を“私”にしてくれた。

最初は書けなかった。

ノートを前にして、ずっと見つめてるだけ。

そんなことをしばらく続けてたんだけど、“お母さんに手紙を書こう”って、突然思い付いて。

書き出したら止まらないの。

色々書いた。

何でいなくなったの?

何で一人にしたの?

私のこと、好きだった?

お母さんに会いたい。


思い付く限り書いて、あっという間にノートはびっちり。私の文字で埋まっていった。

それからだった。

書くことに夢中になって、何冊もノートを埋めて。

ノートが増える度に、少しずつ感情とか表情とか取り戻していった。

書いたノート?

たぶん祖父が持ってると思う。

書いては祖父に読んでもらってたから。

父には言えなかった。忙しくて、いつも家にいなかったし。

それに、子供心に“言っちゃいけない”って感じてた。


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