わたしの魔法使い
選考はペンネームと作品のみだから、父に知られることもない。


母と同じ作家になりたいなら、やってみろ。

祖父はそう言ってた。


私にとって、書くことって、ご飯を食べたり、笑ったりすることと同じで、私には当たり前のことだった。

だから、改めて作家になりたいか?なんて、考えたことなかった。


ただね、祖父は“やるなら本気でやりなさい。応募する人はみんな、全力で書いてる。中途半端な気持ちで書くなら、他の人の迷惑だから”って。


そう言われて初めて、自分のやりたいことに気がついた。

それが高校1年の時。

前に書いたものを書き直して応募したら、大賞をとれた。

すごく嬉しかった。嬉しくて、本当に嬉しくて……

でも、父の一言で嬉しい気持ちなんて吹き飛んじゃった。

あの人、受賞者が決まった日に帰ってきて、

“くだらない。あんなものに時間をかけるなら、もっと他のことに時間をかければいい”

って言ったの。

“くだらない”

その一言は、私の心を傷つけ、応募した人を傷つけた。

編集者だったのに。

母も作家だったのに。

みんな一生懸命書いて、応募したのに。

それをあの人、“くだらない”って切り捨てたの。


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