わたしの魔法使い
すごい悲しくて、悔しくて。

あの日から父を避けるようになった。

幸いなことに、あの人も忙しくて家に帰ってこない日が多かったから、ほとんど顔を会わせることもなかったし。

ただ、大賞をとったことでデビューが決まり、作家として父に会わなければならなくなったの。

もちろん会いたくないし、会えない。

だから祖父と相談して、ペンネーム以外は公開しないこと、他の出版社からのオファーは受けないことにしてもらったの。

すごいわがまま通しちゃったけど、私は幸せだった。

父に知られることなく、好きなことに没頭できる。

学校行って、小説を書く毎日。

本当に幸せだった。



でも1年半前。

あの人、真っ青な顔して帰ってきて、
“お前が千雪だったのか”
って言ったの。


最初は

“なぜ黙ってた!”

“なぜくだらないことをしてる!”

って、責めるだけだった。

それがいつの間にか、手が出て、足が出て……


「…――その辺りから小説も書けなくなったの……」


ふーっと息をつき、ゆっくり顔をあげると、悲しげな茶色の瞳にぶつかった。

…颯太さんは一緒に悲しんでくれてる……


本当に優しい人なんだ…


「…そうか……それで、逃げてきたんだね。辛かったよね…」


そう言うと、温かな大きな手で、私の涙を拭ってくれた。


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