わたしの魔法使い
痛いほどの沈黙が流れる。

頭の上には颯太の手があって、聞こえるのはゴン太の息づかいだけ。



「……朱里は…どうしたい……?」


どうしたい……?

どうしたいんだろう?私……



きっと逃げても、また見つかる。

いつかはまた、連れ戻される。

それなら……



私は頭に載せられた手をゆっくりとはずすと、まっすぐに颯太を見つめた。


「逃げないよ。ここにいる。颯太がいてくれるから、私は逃げない。」


はずした颯太の手をギュッと握った。


「……いつまでいられるかわからないよ……?」


颯太の顔が寂しそうに歪む。

いつまでいられるかわからない。

それはわかってる。

わかってるけど……


一緒にいてくれる間は逃げたくない。

もし……

もし一緒にいられなくなっても、私は逃げない。



逃げたって、何も解決しないから。

もう…逃げない。



あの人のことは、怖い。

殴られたりするのはもう嫌だ。

でも……

でも、もう逃げない。

逃げないでいる勇気を、颯太がくれたから。

私の書いたものが好きだって、待ってるんだって言ってくれたから。

ここから逃げない。

ここで、この部屋で新しいものを書くんだ。



颯太のために。



待っていてくれる人のために。



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