わたしの魔法使い
まず僕が決めたこと。

それは店を開く場所だった。

知らない土地で、朱里のことを忘れて、1からやり直すつもりでいた。

でも僕にはできなかった。

忘れようとすればするほど、記憶の中の朱里ははっきりとしていき、一緒にいた頃よりも朱里に恋をしていった。


朱里に会いたい。

だけど、会えない。会ってはいけない。


そんな僕が決めた場所は、朱里の住む隣町だった。


古い小さなアパートの1室が、僕の城となった。


“好きにしていいよ”という気の良い大屋さんの言葉に甘え、和室をフローリングにさせてもらい、壁に本棚をつけさせてもらった。

それと、子供でも手の届きやすい、低いカラーボックス、ゆっくりと座って読めるようにソファを用意した。



「…――問題は、仕入れ関係か……」


出版社に勤めていたとはいえ、僕は総務部。

仕入れ関係には関わってこなかった。

その点に関しては、完全なる素人。



できるなら頼りたくなかったな……



そう思いながら、僕は田中室長に連絡を取った。




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