わたしの魔法使い
田中さんに渡された住所、探さなければよかった。

そしたら颯太に迷惑をかけることもなかったから。

やっぱり帰ろう……

そう思って立ち上がったら、颯太に抱き締められた。

最後に抱き締められたときと変わらない、華奢な体。

フワッと香る颯太の匂い。


「そ……颯太………?」

「ごめん……少しだけ……」


やっぱりね、颯太が好きだよ。

田中さんと一緒にいれば、颯太のこと、忘れられるって思った。

だけど、やっぱり忘れることなんてできなくて……

苦しいよ……

こんな風に抱き締められてると、もっともっと、颯太が好きになっていっちゃうよ……


「…もう……離してよ……」

「うん……」



そう答えてくれたけど、回された腕はなかなか離してもらえなくて……



「朱里……会いに来てくれて……ありがとう………」


その声が震えていた。


「…何で……?何で颯太が泣くの?」



いつも笑ってる印象しかなかった。

百面相のようにクルクル変わる表情しか見たことがなかった。

そんな颯太が泣いている。

見たくないよ…颯太が泣いてるところなんて……

笑っていてほしいよ。


そう思う私に聞こえてきたのは、重荷を下ろすような声だった。



< 264 / 303 >

この作品をシェア

pagetop