わたしの魔法使い
どれくらい颯太の腕の中にいたんだろう?

気がつくと、部屋には西日が射していた。


閉店準備をすると言う颯太と一緒に、改めて店に行ってみた。


ここに案内してくれたおばさまの言う通り、落ち着く雰囲気の店は、まるで颯太のようだった。


「…――雑誌とかって、ないんだね」

「うん。僕の気に入った本しか置かないことにしてるの。注文があれば取り寄せるけど、基本は扱わない」


颯太らしい……。

置いてある本のジャンルはバラバラなのに、整理されているからかそれすら気にならない。

颯太、片付け上手だもんね…

キョロキョロと本棚を見て回る。

だけど、そこに私の本は1冊もなかった。


私の本、好きだって言ってくれたのに……


「朱里?」

「……気に入らなかった?」

「何が?」

「私の……」


それ以上、言葉がでなかった。


ライトノベルは驚くほど多いのに、その中に私のものがない。


私……まだまだなんだ……



「朱里の?……あー、今売り切れなんだよ。入荷待ち」


……ホッとした。


「今!ホッとしたでしょ!」

「キャッ!」


いつのまにか後ろに立っていた颯太に、抱き締められた。


「僕が朱里の本好きなの、知ってるでしょ?」


知ってる。

だから、怖かった。

1冊もないことが……



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