わたしの魔法使い
「もうすぐ新しいのも出るでしょ?楽しみにしてるんだ……」


耳元で囁くように言われ、顔が火照る。

そう、もうすぐあの本が出る。

颯太と出会って、書く楽しさを思い出して書き始めた。

別れて、それでもきっと読んでくれる……

そう信じて完成させた、あのお話。


完成したときはこんな風に、颯太と一緒にいられるとは思ってなかった。

田中さんに感謝しないと……


「…ねえ、颯太。田中さんにいつ、会ったの?」

「あー……半年……くらい前かな?仕入れのことで相談があって……」

「その時、聞いたんだ……」
「……うん。幸せそうに笑ってたんだよ。だからもう忘れようと思った……」


幸せそうに……

あんなに傷つけたのに……

ずっと颯太が忘れられなくて、ずっと待たせてて……

それでも、笑ってくれてたんだ……


「…――いつか、会いに行こうな。二人で……」

「うん……」


会いたいな……

ちゃんと会って、颯太と再会できたこと、幸せなこと、いっぱい傷つけちゃったこと…ちゃんと話したい……


でも……

また傷つけちゃうかもしれない。

もう二度と、私に会いたくないかもしれない……




……颯太の腕の中で、そんなことを考えていたら、私の携帯が鳴った……




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