わたしの魔法使い
久しぶりの本屋は、やっぱり本がいっぱいあって少し緊張する。

手にギュッと力が入る。


「……?」


なにかを握って……る……?


「――!」


強制連行だ!とか言って握った手、そのままだった!


繋いだ手に力が入ったせいか、颯太さんの顔が少し驚いたようにこっちを向く。


「…――いつまでこのまま?」

「うーん。離すと逃げちゃうから、ずっとこのまま。」


握っていた手が少しだけ緩んで、指が絡まれる。

こ、これは!


いわゆる“恋人繋ぎ”ってやつ?


イヤー!

別の意味で緊張する!

こんな!

こんな繋ぎ方!

それも本屋で!



そりゃあ、私だって年頃の女ですから、恋人繋ぎされて嬉しくない訳じゃない。

というより、かなり嬉しい……

だけど、本屋で恋人繋ぎは恥ずかしい。


「恥ずかしいから、離して……?」

「だーめ。」

「逃げないから……」


そういう私に、そっと顔が近づいてくる。

いたずらっぽく笑う顔。

い、息がかかるー!


「だーめ!」


耳元で囁く声が、いつもより妖しく響く。

心臓が止まりそうなほど、色気のある声。

一段と火照る顔。

本屋にいることを一瞬忘れそうになる。


「金魚になってるよ。」


そう言われても、もう顔をあげることができない。

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