マスカケ線に願いを

「蓬弁護士って、そっちの方はどうなの?」
「?」
「あれだけ若々しかったら、相当激しかったり?」

 私は真っ赤になった。

「ゆ、ユズが待っているのでお先に失礼します!」
「あら、赤くなっちゃって、杏奈ちゃん可愛い」

 私はその場から逃げ出した。その足で向かった駐車場、ユズが車の中で待っていた。

「ごめん、待った?」
「いや、それほどでもないよ。お疲れ」

 そう言って助手席に乗り込んだ私の頭をなでてくれるユズが、好き。

「晩御飯、何がいい?」

 付き合い始めてから、ご飯を一緒に食べるようになった私達。ユズの部屋か私の部屋かはそのときの気分しだいだけど、最近はユズの台所で料理するのにも慣れてきた。

「そうだな、杏奈の作るものなら何でも良いんだけど」
「何でも良いは反則よ。献立を考えるの難しいんだからね」
「スーパーよって、材料見ながら考えるか」

 ユズの言葉に私はうなずいた。


 人と一緒にいると疲れるけれど、ユズと一緒にいるときは私は変に気を使わなくてすむ。
 それはユズの持つ雰囲気のおかげかもしれないけれど、楽だと思った。
 実際ユズと付き合い始めてからは、以前のように堕ちることもなくなったのだ。


 結局、具材を混ぜるだけの中華の素を買って、麻婆茄子にした。

「私が味付け担当じゃないと、料理したって気分にはならないわね」
「でも、楽で良いだろ」
「確かに」

 野菜を切るのを、ユズも手伝ってくれる。

「座っててくれれば良いのに」
「疲れてるのはお互い様だからな」

 一人暮らしをしているだけあって、ユズの包丁さばきはなかなかだった。

「私、まだユズの料理食べたことないな」
「鍋なら得意だぞ」

 ユズの言葉に、鍋奉行と化したユズを想像してしまう。

「ふふ」
「なに笑ってるんだ?」
「ううん、鍋だったら、二人だけじゃ寂しいなって思って」

 二人で鍋を囲むのも、ちょっともの寂しい。
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