マスカケ線に願いを

 ユズ、大好き。
 だけど、大好きだから考えてしまう。貴方の言う余計なことを。

「うん、そばにいてね」

 いつか貴方が私から離れていってしまう日が、私の頭の中から消えてはくれないの。

 それは頑固で一直線なマスカケ線のせいかもしれない。
 一度思い込んだらなかなか消えてくれないのかもしれない。

 それでも私は、ユズが好き。



 ユズと一緒に待ち合わせの場所に現れた私を見た沙理菜の顔は、見物だった。

「えっ……」

 目を見張って硬直した沙理菜に、にっこり笑いかけるユズ。

「ごめんね、遅くなって。ちょっと仕事が残ってたの」
「ううん、いや、それは良いんだけど……」

 私は笑って、ユズを紹介する。

「こちらは、蓬柚紀弁護士。私の彼氏」
「よろしく」

 沙理菜は慌てて頭を下げた。

「田中沙理菜です」

 名乗って顔を上げた沙理菜は、いきなり私の腕を引いた。

「ちょっと、どうやって捕まえたのよ、こんないい男!」

 そう、ユズに聞こえないような小声で囁いてきた。私は苦笑した。

「知り合ったのは事務所だけど、きっかけは沙理菜に無理やり連れて行かれた合コンかな」
「えっ、いったいどういう……」

 私は沙理菜をさえぎって、ジト目の笑みを浮かべる。

「今日は奢ってくれるんだよね」

 私の言葉に、沙理菜はちょっと引きつった笑顔になる。

「お、奢るけど……」
「けど?」
「今日は杏奈に紹介したい人がいたんだけど……」

 私はにっこり笑って、ユズの腕を取った。

「それじゃあ、私達、違うテーブルで飲んでるから。会計はよろしくね」
「……はい」

 店内は薄暗い照明の中、なかなか良い雰囲気だった。
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