マスカケ線に願いを

「杏奈は、嫉妬とかしないのか?」

 嫉妬?

「ユズの過去にまで嫉妬してたら体が持たないわよ」

 ユズはよほど気に入らないのか、私の頬をつねった。

「何」
「ちょっとくらいやきもち焼けよ」
「この夕焼けみたいに?」

 グラスを傾けると、ユズは微笑んだ。

「杏奈は、ちょっといろんなこと考えるくせに、そういうとこは冷めてるな」

 私は言葉を詰まらせた。

 確かに、ユズがいつか離れていってしまうのが不安。
 だけど、ユズのことを縛り付けたいとも思わない。
 ユズを縛り付けたいと思った瞬間、一人で歩けなくなってしまうから。

「……だから、みんな離れていったのかもね」

 そうか、私はちょっと冷めてるから。
 ただ、表現するのが苦手なだけなのに。

「頑固だしな、杏奈。でも、俺はそれでいいと思う」

 でもユズは、そんな私も受け入れてくれる。

 私はそっとユズの手を握った。

「ん?」
「ちょっと、甘えてあげる」

 そう言って、ユズの肩に頭を乗せた。

「……こういうのも、いいな……」
「うん?」
「いや、なんでもない」

 ユズは、本当に不思議。
 私を包み込んでくれる。

 頑固で、可愛くなくて、冷めている私なのに、ユズは私を受け入れてくれる。

 そんなユズに、のめり込んでいく自分を、感じずにはいられなかった。


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