マスカケ線に願いを

「?」
「初めまして」

 不思議に思った私が口を出す前に、小夜さんは笑顔で木山弁護士にそう返した。

「うん、それじゃあ、私もお昼を食べに行ってくるわ。またね」
「はい」

 降りていく木山弁護士を見送った小夜さんが、そっとため息をついた。

「どうしたんですか?」
「え、ああ……あんな綺麗な人と一緒に仕事してたら、男の人だったら惚れちゃうだろうなって思って……」

 小夜さんの言葉に、私は納得がいった。

「恋って、いいですね」

 からかいを含んだ笑みで、私はお返しをした。
 私の言葉に、案の定小夜さんは真っ赤になる。

「あ、杏奈ちゃんったら……やだっ」
「ふふ」

 そんな小夜さんが可愛らしくて仕方ない。
 小夜さんが私から桃色のオーラが出てると言っていたけど、私も他の人から見たらこんな感じなのだろうか。
 そんなことが、ふと気になった。

「よっ、杏奈ちゃん、岩山さん」

 屋上へ向かう階段を上がってる途中、後ろからぽんと背中を叩かれた。

「あ、久島弁護士」

 コウが、笑顔で私達を見ていた。その隣にはユズも一緒だ。

「今日は岩山さんも一緒なんだな」
「うん、せっかくだから」

 ユズの言葉に、私はうなずいた。小夜さんが一緒だということを、ユズ達には伝えていなかったからだ。
 屋上のベンチに陣取りながら、私達は各々お弁当を広げる。ユズと私のお弁当は、同じメニューだ。

「そうだ、二人とも、小夜さんも下の名前で呼んだらどう?」
「ん、小夜ちゃんって?」

 コウが口にした瞬間、小夜さんの顔が真っ赤になる。それを見たコウが笑った。
< 172 / 261 >

この作品をシェア

pagetop