マスカケ線に願いを
私はぼんやり木をかたどったオブジェを眺めていた。毎年クリスマスになると、これに綺麗な飾り付けがされる。
かつての恋人と一緒に見たそのクリスマスの幻灯を思い浮かべていると、誰かが近づいてきた。
「お姉さん、一人?」
予想通りというか、声をかけられた。
こんな時間に女一人で外にいれば、私じゃなくたって声をかけられるだろう。
わずらわしく思いながらも顔を上げれば、私の前にいかにも軽そうな二人組みの男がいた。
「俺たち暇なんだけどさ」
「ちょっと付き合わない?」
にやにやと私を見る。下心丸出しのその雰囲気が、気持ち悪かった。
私はそんな彼らを心の中で嘲った。
「私はいいけど、貴方達、ちょっと困ったことになるんじゃないかな」
「ええ?」
「どういう意味?」
ねちっこい話し方で、男達は興味を持ったように身を乗り出す。私は笑みを浮かべた。
「私ね、この繁華街しきってるやくざに囲われてるの。私に手出ししたら、ちょっとやばいんじゃないかな?」
私の嘘に、男達は明らかに顔色を変えた。
男というものは単純で、色に弱いくせに、保身に素直だ。現に男達の顔からはにやにや笑いが消え、お互いを目で伺っている。
「あー、うん、そっか。それじゃあね」
そして、そそくさとその場を去っていった。
嘘はばれなければいい。
「へぇー、お前って、やくざに囲われるんだ?」
「っ!?」
後ろからからかい混じりの声がかかって、私は驚いてそちらを見た。
見覚えのあるスーツ姿の男性が立っていた。