マスカケ線に願いを

「ユズの元に戻るのが怖くなった」
「……杏奈ちゃん」

 それは、私の正直な気持ちだった。
 ユズといる未来のために選んだ距離を置くという決断。すぐにユズの元へと戻るはずだった。
 なのに、私は怖くなった。

「傷つくのが怖い。ユズに傷つけられたくない。ユズを、傷つけたくない」

 それは私の弱さ。
 人より器用な私の、意地っ張りで強がりな私の、弱さ。

「もう、傷つきたく……っ」

 はっとしたときには、私はコウの腕の中にいた。

「コ……ウ?」
「俺なら杏奈ちゃんを傷つけない」

 その言葉と今の状況に、私は混乱した。

 なんで、私は今コウの腕の中にいるの?
 俺なら私を傷つけないってどういう意味?

 呆然としている私の耳元で、コウが続ける。

「ユズなんてやめて、俺にしとけよ」

 この人は、一体何を言ってる?
 私は、ユズのものなのに……!

「……っ放して!」

 私は、コウを突き飛ばしていた。

「……冗談でも、荒療治でも、こんなの許せない!」
「……なんだ、ばれてんのか」

 あまりにもけろっと言われ、私はため息をついた。

「本気じゃないことくらい、わかります」
「さすが杏奈ちゃんだ」

 くすくす笑うコウに、してやられた気分になる。
 そして、少しでも焦ってしまった自分が、情けない。
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