マスカケ線に願いを

「ええっと……ユズ弁護士?」

 蓬弁護士もといユズ弁護士は呆れたように、顔をしかめる。

「それ、意味ないから」

 早くしろ、とユズ弁護士が私を目で急かす。

「……ユズさん」
「さんが余計」

 むすっとして言うユズ弁護士もといユズさんは、結構しつこい。
 もう、ここまで来ると可笑しくなって、笑いをこらえるのに必死だ。

「……ユズ」

 私がそう呼ぶと、ユズさんもといユズは嬉しそうに笑った。その表情が子供のようで、私もつられて笑った。

「あ、でも事務所では名前で呼ばないでくださいね」
「まだ帰らないのか? 送っていくぞ?」

 私の言葉には答えず、ユズが訊ねた。
 私は、返答に困る。

 まだ、一人にはなりたくない。
 一人になれば、ユズと話して高揚した気分がすぐに降下してしまうから。

「……もうしばらく、ここにいます」
「杏奈?」

 ユズの疑問を含んだ呼びかけに、私は正直に応えることにした。

「ちょっと、まだ家に帰りたくないんです」

 私の言葉に、ユズは時計を見た。
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