マスカケ線に願いを
「警察には言ったの?」
「言ったんですけど、多分、動いてはくれないんじゃないかと思っています」
「蓬弁護士か、久島弁護士に頼んでみたら? 仲よさそうじゃない」
私は首を横に振った。
「そこまでの仲じゃありませんし……迷惑は掛けられません」
「そうなの? でも、もし私が男だったら、杏奈ちゃんみたいな美女に頼られて悪い気はしないと思うけどな」
「でも、やっぱり無理です……」
私の言葉に、小夜さんは私をまじまじと見た。
「やっぱり、話してみないとわからないものね」
「え?」
小夜さんは苦笑する。
「いえ、杏奈ちゃんみたいな美人は、男の人に頼って生きてるって思ってたから」
「……実際、そう噂されてるみたいですしね」
小夜さんは急に咳き込んだ。
「う、噂なんて気にしちゃ駄目よ! みんな好き勝手言ってるんだから……」
「気にしてません」
もっぱら気にしているのは、この紙切れだ。
「変なことが起こらないと良いんですけど……」
「起こってからじゃ、遅いのよ? 誰か友達と一緒にいるようにしなさい」
小夜さんの言葉に、私はうなずいた。
仕事から帰ってきて、毎日確認していた郵便受けを、怖いと思ったのはこの数日だけだ。
「……ふう」
気合を入れて確認すると、紙切れは入っていなかった。
ほっとして、私は他の郵便物をかばんに入れて、部屋に向かった。
もしかしたら、ストーカーも私に飽きたのかもしれない。